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日本分類学会設立趣意書

昭和58年6月11日

"分類"はあらゆる科学における基本的な思考操作である.しかしながら,このことは従来とかく看過されがちであった."分類を通じて物事を知る"ということがあまりにも当然であるために改めてそれが固有の方法であると意識されなかったのである.この傾向は今日もなお残っている.そのため,本来思考の枠組として科学的見地から検討されるべきはずの分類に対する研究は進展しなかった.にもかかわらず,取り扱う現象や情報が単純であった時代にはそれでも支障が少なかったといえる.

しかし,いまや状況は一変した.計算機や情報科学の発展がデータを扱う諸科学に強烈な影響をもたらし,どの研究分野においても多種多様の膨大なデータが蓄積される時代になった.また,計測技術の進歩により,扱う情報が複雑になり,その様相も多元的かつ動的なものに変質している.さらにいまの時代が要請する新しい研究は学際的であり,また境界領域に多いということも見逃せない要素であろう.すなわち,諸分野がそれぞれ異質な体系の上に構築された状況の中で,相互理解が要求される時代では,分類に対する特定の分野の常識では有効に研究を進めることができなくなっている.これは"分類"という操作が同じ分野の中ではきわめて容易なことと,考えられてきたところに原因があろう.科学の諸分野が相互に成果を共有するという方向から"分類"そのものを再考する必要がある.

ここに分類に関する新しい方法論への大きな期待が生まれてくる.状況の変化がどうであれ,分類が科学の基本であることには変わりがない.それゆえ,われわれはまず,分類の操作を通して"新しい情報を生む"ためにいかなる立場に立つべきかの考察を進めなくてはならない.すなわち現象解析においては,いかなる仮説を立て,いかなる情報を導き出すかが重要な意味を持つ.さらに情報の源としてのデータの性質を十分考慮し,また現象の性格を踏まえた上で,質の高い情報を得るための分類のあり方を共通の概念として体系化しなくてはならない.また,その方法やソフトウェアは簡明であるべきであり,深い情報を汲みとる工夫がなされるべきである.要は,"いかなる分類方法"を"いかにして具体化するか"という点にあるが,いうまでもなく,これは現象に即して柔軟な視点から考えられねばならない.

"分類"は科学の本質に直結する問題であり,基礎的な考察からより具体的な適用まで,きわめて広範囲に亙るものである.それゆえ,分類の研究にとって基礎理論と応用とが一体になって進む研究体制が必要である.

分類操作を介して現象の深奥に迫るための一般的な方法論を構築し,それを応用して成果をもたらすことは多くの分野の研究者が知恵を分ち合うことによって始めて可能となるといわなければならない.

分類に強い関心を持つ研究者有志がここに集い,共通の理念のもとに研究会を発足させることは,きわめて意義があると確信するものである.